まずは、ドナルド・トランプ共和党大統領候補のラジオCMを聴いてみてください。一番上の「Dangerous」の「▶」を押すと、トランプ本人の声が流れます。
http://www.donaldjtrump.com/media/november-18th-radio-spots
これは、昨日から流れているラジオ・スポット。日本でも政党のテレビCMが普及しましたが、アメリカでは候補者個人のCMがけっこうな勢いで放送されます。
トランプが、CMで訴えているのは煎じ詰めればこういうことです。
- オバマは甘い。他の政治家も甘い。
- シリア難民は受け入れない。
- イスラム過激派への攻撃を強化する。
- 俺にまかせろ!
パリのテロ以来、大統領選の争点は「内政」から「外交」に大きくシフトしました。とくにシリア難民受け入れ(オバマ大統領は10万人の受け入れを表明。現在までに約1,800人を受け入れ)や、イスラム過激組織に対する米軍の対応に関し、大統領候補者たちも積極的に発言しています。トランプは例によって極右ですが、さて他の候補者はなんと言っている?
ベン・カーソン共和党大統領候補:シリア難民の受け入れは全面中止。「can not, should not, and must not」と「絶対ダメ」を強調。この人の支持基盤は福音派キリスト教団体。
ジェブ・ブッシュ共和党大統領候補:1)シリア難民は、キリスト教徒だけを受け入れる(シリアのキリスト教徒は10人にひとりの割合)。2)ISIS撲滅のため、中東に米陸軍と海兵隊をもっと送り込む。3)ペンタゴンは新たに軍艦と戦闘機を買う。
テッド・クルーズ共和党大統領候補:「イスラム教のシリア難民を受け入れるなど狂気の沙汰。受け入れはキリスト教徒のみ」
ランド・ポール共和党大統領候補:シリア難民の受け入れは一時ペンデイングする。
ランド・ポールは柔らかめですが、共和党候補者は総じて「シリア難民シャットアウト派」。一方、民主党の大統領候補者たちは、同党のオバマ大統領と同じく、「開かれたアメリカ派」です。とくに、ヒラリーは昨日こんな内容の意見を出しました。
「第二次大戦中の日系アメリカ人強制収容は、アメリカの黒い歴史。シリア難民の処遇について、その暗い過去を参考にしようなどという考えは、断じてあってはならない」
ヒラリーの発言については、少し説明を加えなければなりません。実は、昨日、ヴァージニア州のロアノーク市長(デヴィッド・バワーズ)が、「シリア難民を、戦争中の日系人みたいに強制収容したらいい」と、言い出したのです。
真珠湾攻撃に続く1942年2月、ルーズベルトの大統領令によって、西海岸その他の軍事指定地区の日系アメリカ人は収容所に送られました。これはヒラリーの語る通り、アメリカの「黒歴史」です。実際、1988年には、当時の大統領レーガンが、国の誤りを認め正式に謝罪、賠償をしています。したがって、この市長はとんでもないことを言い出したわけです。どこの国にも、失言政治家っているもんですね。今回、ヒラリーがすぐに反応したのはさすが。
ちなみに以下は拙著。「日系アメリカ人と第二次世界大戦」について書いてあります。まさか大統領選のブログで、この本を紹介する機会があるなんて思わなかったです。宣伝でごめんなさい。でもそれくらい、パリのテロ以降、混乱しているアメリカ社会なのです。