民主党大統領候補のヒラリー・クリントンが、副大統領候補に選んだティム・ケイン上院議員(ヴァージニア州選出)。この人、ドナルド・トランプの副大統領候補、マイク・ペンス(共和党)同様、とても知名度が低いです。実際、7月22日に副大統領候補と発表された際には、本人が、「今日まで、私の名前を聞いたことがない人もいるでしょう」と語ったくらい。
ケインは民主党主流派。カリスマ性はなく、しばしば「退屈」とも形容されます。しかし、穏やかで良い人そうではあります。政治家になる以前は弁護士でしたが、特に、人種や障害のために、不公平な住待遇を受けている人々を弁護する活動をしていました。ハーバード・ロー・スクール卒ですから、もっと高給な仕事はいくらでもあったでしょう。このあたりから、人柄をうかがい知ることができるかもしれません。
*経歴
- 1958年/ミネソタ州生まれ。父は溶接工で、小さな製鉄所を経営。カソリック教徒。
- 79年/ミズーリ州立大学経済学部卒。
- 80年/ハーバード・ロー・スクール在籍中にイエズス会から派遣され、中央アメリカのホンジュラス共和国で9カ月を過ごす。この期間にスペイン語を習得。
- 83年/ハーバード・ロースクール卒。ヴァージニア州で法曹界に。同時に、同州リッチモンド市の大学で「法の倫理」を教える。
- 84年/結婚。妻は、元ヴァージニア州知事の娘。
- 94年/ヴァージニア州リッチモンド市の市議会議員。
- 98年/同市長。
- 2001年/ヴァージニア州副知事。
- 06年/同州知事。
- 09〜11年/民主党全国委員会長。
- 12年/ヴァージニア州選出上院議員に。
ヒラリーには、女性やラテン系の副大統領を選ぶ道もありました。実際、メディアはエリザベス・ウォーレン上院議員の名を取り上げたりしていました。しかし、4月から選考を始め、25名以上の人々を吟味した結果、選んだのはケイン。2人は、特別親しい間柄でもなかったようです。
*では、なぜヒラリーはケインを選んだのか?
- 進歩的で、弱者に思いやりがある政治家なので、サンダース支持者に訴えることができる。
- 地味だが、仕事ができる政治家。
- スペイン語ができ、ヒスパニックから強い支持がある。
- ヴァージニア州は大統領選の激戦地だが、ケインの地元なので有利。
- 隣のノースカロライナ州も激戦地だが、ケインの地元に近いので有利。
- 潔癖で大きなスキャンダルなし。
要するに「実」を取ったということのようです。なお、ケイン選出については、夫、ビル・クリントンの強い推しがあったといいます。
他にケインの政治信条としては、
- ウォール街改革の「ドット・フランク法」支持。
- 死刑廃止論者で、ヴァージニア州知事時代には、自らの理想と法の狭間で悩んだ。
- 環境問題に積極的。
- カソリックなので個人的には中絶反対だが、女性の権利として認めている。
- 同性愛OK。
- TPP推進派。
- 銃保持者だが、購入方法や販売品目の規制には積極的。
ケインのウリのひとつは、スペイン語です。2013年には、移民法に関し上院において、すべてスペイン語でスピーチしたこともあります。これは、アメリカ史上初の外国語演説だったそう(個人的には、これって変だと思いますが)。このことからもわかるように、彼の政策は移民にやさしく、たとえば、不法入国者でも、罰金と税金を払えば移民権を与えるという考えです。
なお、ケインは、32名が殺されたヴァージニア・テクニカル・カレッジ銃乱射事件が起きた時の同州知事でした。事件当日はちょうど日本出張中で、ホテルにチェックインした直後に緊急連絡が入り、地元にとんぼ返りしました。
ケインは地味ですが、一度も落選したことがないという運の強さも持ち合わせています。そんなところも、ヒラリーの気に入ったのかもしれません。人間、運って大事。